イギリス誌/LONDON
 焼酎バー「草庵」は東京のビジネス街である新橋にあり、同じく造形集団の兼
城祐作氏がデザインしたレストランバー「あしびなー」がある7階建ての飲食ビ
ルの最上階に位置している。新橋駅に程近い両店は、仕事帰りに同僚と一杯とい
った感じのビジネスマンでいつも混み合っている場所にある。
 今迄焼酎は日本酒よりチープなイメージの酒とされていたが、この蒸留酒(米
やそば粉といった原料から蒸留される)は2003年の販売実績が日本酒より上
であったという点において、日本で新たな復活を遂げている。香り付けられた焼
酎を作り出すためにプラムやレモングラスといった果物やハーブが加えられ、女
性達の間で大変な人気となって来ている。「店のオーナーからは女性が親しめる
焼酎バーを作って欲しいと依頼があり、先に決まっていた店名に合わせて女性ら
しい“草と花”を店鋪デザインのテーマとした」と語るのは造形集団の兼城祐作
氏。「あしびなー」と同様、兼城氏は日本の最南端にある故郷の沖縄から多くの
インスピレーションを受けており、58席の店内はオーガニックな素材と形で一
杯である。
 「草庵」で最も目を奪われるのは強化ガラス製の光るバーカウンターである。
滑らかな積層ガラスカウンターの表面には所々穴が開いていて、そこには赤い薔
薇の花が一輪生けられている。グリーンとの対色が鮮やかで、繊細にも見えるが
一方では妖艶な色気をも醸し出している。天井は草花を埋め込んだ和紙で埋め尽
くされ、葉の形をした幾つもの飾り穴からは緑色の光が柔らかく漏れ出しバート
ップや他の物の表面にかすかな影を落としている。強化ガラス製の葉のモチーフ
はエメラルド色と土の色に彩飾されたフロアータイルにも繰り返し登場し、客を
温かいグリーンで包み込み店内へと導く。スチールの骨組みで囲まれた10人用
の部屋は蔦で編んだ細い格子に覆われ、コンセプトである自然がより強調されて
いる。この篭の中にもまた葉っぱの形を模した大きな楕円形のガラステーブルが
あリ、天板越しに見えるのは海岸に流れ着いた流木が脚となってそれを支えてい
る。この席は、まるで森林の中で食事をしている様な気分にさせてくれる店鋪設
計となっており、他にもさまざまな木材やガラスの層で囲まれながら完全には仕
切られていない空間で食事をする事ができる。
 「草庵」は店名と店内のデザインコンセプトが兼城祐作氏によってみごとにリ
ンクされ、そこへ自慢の焼酎が加わる事ですべてがバランスよく集結された東京
スタイルのバーではないだろうか。
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