イギリス誌/LONDON
 自分へのご褒美が大流行している。職を持つ女性は特に自分にご褒美を与える事に長けている。
だから多分、「モシモシ寿司」の女性代表取締役キャロライン・ベネット氏が、10周年記念に
1店鋪目であるリバプールストリート店の店鋪デザインを自身へプレゼントしたというのも驚く
べき事ではないだろう。そう、あなたは知らなかったなかったかもしれないが、モシモシ寿司は
“Quaglino's”や“The Atlantic”と同じくらい長く存在しているのである。
「我が社が設立してから随分長い時間が経つ」と統括マネージャーのエディー・マクアダム氏は
言う。「そしてロンドンでの寿司レストランの先駆者として、いつも真の日本的生活を表現し続
けてきた」“Yo! Sushi”スタイルのような大きいブランドを作り上げる意図はない。1994
年以来モシモシ寿司はロンドンにたった4件のみレストランをオープンさせ、5番目にブライト
ン、そして次なる候補地としてケンブリッジに目を向けている。一つの会社として、彼等は“真
の商売”をしている事に誇りを持っている。「我が社は魚をどこから仕入れるかについて大変厳
しく吟味しており、有機素材のみを使い、日々伝統的和食を作っている。我が社はちょうどいい
バランスでゆっくり成長している」とマクアダム氏は語る。モシモシ寿司の自然な成長過程の一
環として、オリジナル店であるリバプールストリート駅店の改装に500,000ポンドを費やしてお
り、「その次のステップとして、何か斬新な現代の東京をロンドンに持ち込みたかったのである
」と語った。
 そして今をときめく日本人デザイナー、造形集団代表の兼城祐作氏にそれを委任する事により
彼等は都市の中心に革命的な空間デザインを紹介したのである。兼城氏は信じられないほど多く
の店鋪デザインを東京ベースに手掛けているアーキテクトデザイナーで、これまでに500件を
超える日本のバー&レストランデザインプロジェクトをこなしてきた。そして信ずるや否や、大
変な数のプロジェクト生産高にも関わらず、つまらない作品は一つもないのである。兼城氏がロ
ンドン訪問の際のインタビューで、彼の作品を拝見する機会を得たが、それはかなりの畏敬の念
を起こさせた。
 沖縄生まれ43歳の兼城祐作氏は、その豊かな創造力を奔放に巡らせ、そしてその完成作品は
驚くほど素晴らしく、圧倒的な存在感に満ち溢れている。兼城氏は木の枝や小石、和紙、竹など
のシンプルな素材を使い、日本的な有機的審美眼を用いてSF映画のシーンや大宇宙にあるよう
なものを調和させる。彼のほとんどの店鋪デザインには、神秘的な空間の間隔、密かな空間をよ
り効果的に見せる照明計画と斬新な形、そして様々に変化する仕切られた空間と想像を超えたデ
ザインアイディアが含まれている。「自然な素材を使って何かそこには存在し得ない、そして誰
もが今まで見た事もない完全に新しい“何か”を創り出したい」と彼は言う。モシモシ寿司のス
タッフは彼のデザインスタイルで遂行する事に異義はなかった。
 建築面での制限上、ビルの構造はそのまま利用せざる得ず、更に規制だらけのその空間内に兼
城デザインはみごとにオリジナル空間をはめ込む事に成功したのである。
 既存の区画に沿って象られた2つのアーチは、それぞれ違う役割を持ち1つは店内への誘導を
促し、もう1つは筒状の客席となっている。その廻りにはグループ用のテーブル席やカップル席
と、さまざまな用途に合わせて利用できる様アレンジされている。そして、店内の中心部にある
構造の柱を囲む様に納まっているのは、直線で結ばれたコンベヤーベルトとガラスでできた寿司
カウンター席である。このガラス天板の中には畳が敷かれており、上部からスポットライトで照
らされている。暖かみのあるアフリカンチーク材のフローリングは、インテリアの自然な土の感
じをより強く引き起こす。日本から空輸されたパネル状の和紙は、裏側に照明が仕込まれている
事でそれ自体が発光し、レストランの装飾と看板の役割りを担っており、全ての木材壁はコーテ
ィング加工を施され、染色されたイギリスの木材からなっている。
 コミュニケーションと地理的距離の壁にも関わらず、モシモシ寿司は兼城氏との仕事を楽しん
でいる。「もしできるのならば、一年内毎月でも兼城氏と仕事をしたいと思う」とマクアダム氏
は言う。
 現在、兼城氏は晩春頃完成予定となるもう一つの大きなプロジェクト、アイロンモンガーレ?
ンの方に集中している。5?6000平方フィートは有にありコストも相当かかる為、他のレストラ
ンとは多少異なるものとなる。「ここは地下にヨガ教室とラウンジバーのある、オープンキッチ
ンのアジアンレストランになるだろう」とマクアダム氏は語る。ちらりとかいま見たプレゼン用
の店鋪設計図から察するに、もし計画通りに事が進めば、これはかなり劇的な外装で感動的な空
間の創造物になるように思われ、今から楽しみである。
 兼城氏の方はと言うと、実際的に彼はほとんど休暇をとらないらしく、創造するアーティスト
に典型な“まだ誰も挑戦した事のない事” を試すのが大好きなのだそうである。そして彼は考え
る事を止めない。私達とこのインタビューでカフェに行ったときでさえ、目の前にある角砂糖の
ような何の変哲もないものからもインスピレーションを受けるのだと言う。彼は固執する事や一
つ一つの生産物を開発する事には興味がないが、「全体的な環境を作り上げる」事を好むのであ
る。いつの日か私がカネシロホテルにチェックインできる日が待ち遠しいが、それまでロンドン
ッ子は「モシモシ寿司」で素晴らしい日本の食と彼の作品を味わい楽しむ事ができるであろう。
これが私達全員が楽しめる自分へのご褒美と言う事なのである。
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