海外向け日本誌/WORLD
 京都の言葉で“こーとな”とはプレーンで上品であることを意味する。但しデザイナー
の兼城祐作氏は、この京都スタイルの居酒屋をプレーンな店鋪デザインにはしなかったが。
 エレベーターのドアが開くとエメラルド色のガラス板を重ねて作られた大きな円形の間
仕切りと、店内へと続く一段高くなったアイボリー色の通路が美しい砂紋の上に現れ、上
品な美しさを予感させる。我々は、月の形の彫刻が施された天井を支えるファイバーグラ
ス製の柱や、兼城氏のトレードマークでもある楕円形の和紙のランプで照らされたマホガ
ニーのカウンターの横を通り、ジャパニーズスタイルの掘りごたつ式の席に案内された。
 脱いだ靴を靴箱に入れ席につくと、我々はまず一杯目のドリンクとしてドラフトビール
と青谷梅酒を注文してまた新たな良い店を見つけたことを祝い、若いサラリーマン達でに
ぎわう店内で夜を過ごした。冷たいドリンクを待つ間、辺りを少し見渡して見ると波の様
にうねった板が壁面を覆い、照明で照らされている事で自然にできた陰影が何とも味のあ
る表情を見せてくれていた。しばらくして、これは京都の木造長家でよく見かける素材だ
と言う事に気が付いた。兼城氏は伝統的な職人技で削られた木とガラスの組み合わせで、
京都の街並を現代風にアレンジしてしまったのか、はたまた彼の目にはこの様な形で映っ
ているのか…なんとも型破りで斬新な空間デザインである。
 漢字で書かれたメニューを隈なく見て地鶏の炭火焼がお勧めメニューであることを知り、
すぐに鶏の胸肉のガーリック風味とバーベキュー風味のもも肉を注文した。どちらも絶品
で「こーとな」が厳選した鳥肉を仕入れていることがよくわかった。海塩や山椒、こしょ
う、和からし等といった調味料が用意されているので、好みに応じて味を楽しむこともで
きる。鶏肉だけが京都の美味しいものではないから、続いてシーフードを食べてみようと
細かく刻んだ青ねぎがたっぷりかかったスズキの刺身を注文してみた。醤油は用意されて
おらず、ポン酢としょうがのつけだれにつけて食べてみたが、より一層風味が増したよう
であった。次に頼んだ金目鯛のグリルは小ぶりだが身が締まり香ばしく、ありがたいこと
に骨が無かった。次に我々は面白い形のお椀にとろみのあるだし汁とアナゴが入ったもの
に挑戦した。天ぷらや照り焼き風のたれがかかったよく見かけるアナゴとは違い、だし汁
ははっきりとした味付けではなく奥深い味わいで、我々にはまだちょっとなじみの無い味
覚であった。日本の古都の味覚の全てが我々の口に合ったというわけではないが、殆どの
ものは素晴らしく、特にアスパラ巻き、串に刺したこんにゃく、そして最後に食べた大根
おろしを添えた厚焼き卵は絶品だった。他のトラディショナルな料理とは面白い程異なっ
ていたババロアをデザートに食べ、またヘルシーなアロエとクランベリーソーダといった
今風の飲み物でその夜を終えた。
 最初から最後まで我々は畳の上に座っていたので脚がしびれたが、帰りはまたクールな
ガラスのパーティションの間を通り抜け兼城ワールドから離れ、我々を家路へと連れ帰っ
てくれるエレベーターに乗り帰途についた。
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