海外向け日本誌/WORLD
 東京からミラノへのフライトは半日かかるが、世界的にお洒落なファッションの
街の雰囲気を少し味わいたいのであれば、御茶ノ水にあるガラスの厚い扉を開けて
「ミラノバー」へと続く階段を降りてみればよい。そこには東京にいながらにして
地中海を想像させる様なブルーを基調とした世界が広がっており、視界が開けた瞬
間我々はゴージャスな店内に思わずボーっとした。この店鋪をデザイン・設計した
兼城祐作氏は都内で数えきれない程のレストランを手掛けており、どの店も個性的
で独創的な店鋪デザイン空間ばかりである。ここミラノバーでも彼の「形」へのこ
だわりと素材使いのテクニックを存分に楽しめる期待感でいっぱいだった。
 店内のカラフルなガラスと曲線的に美しくデザインされたベンチは、この店の名
の由来となった都市で年二回開催されるファッションショーのステージを思わせる
空間になっていた。カウンター席の方に向かって歩きながら、我々の視線は飾りの
ない大理石の床と円形テーブルを囲む青く細長い光の断片曲線に目を奪われ、更に
ふと上を見上げると、細い階段が二手に分かれた先にロフト席があるのを発見した。
兼城氏の空間使いは見事だと改めて感心した。混雑した客の大半はOLであり、ミ
ラノ行きの飛行機に乗るほどにはリッチではないとしても、平日の夜ここで過ごす
位の経済力は十分にある20代のスーツ姿の女性達がまさにこの場の主役であり、
メニューも彼女達を意識したものであることにすぐ気づいた。飲み物は甘いカクテ
ルが中心で、二人の男性バーテンダーは女性客達のお気に入りである Felice や 
Venezia Cruiseといった堂々とした名前のカクテルを作るのに忙しく動いていた。
シェイカーを振る彼らのバックには大きなガラス扉のショーケースが客席とのパー
テーションの役割をも果たしており、奥の席で賑やかに宴を楽しんでいるグループ
がそれ越しにチラチラと伺い知る事ができた。壁に掛けられたアーティスティック
な写真達を眺めながら、我々も甘いカクテルを楽しんでみようとグリーンティーク
ーラーを注文すると、細長いグラスに入ったグレープフルーツ味のとても明るいグ
リーンのカクテルが出てきた。お通しである海老のライスペーパー包みを食べなが
らジュースのように甘いカクテルを飲んでいたが、我々はメニューにある他の面白
そうなカクテルをそれ以上試してみるのはやめて、ドラフトビールやミラノバーの
お勧めドリンクでいかにも我々好みの味でありそうなたっぷりのスコッチに、ソー
ダとレモンを混ぜたミラノハイボールを飲むことにした。
 夜が更けていくにつれ、我々は飲みものとにぎやかな女性客のおしゃべりや、バ
ックに流れるソフトなR&Bに我を忘れるほど楽しんでいたが、ラストオーダーを
聞かれてふと今お茶の水にいて家からは遠いのだと思い出した。支払いを済ませ、
最後にもう一度絵のように美しい店内を見渡し、その時ばかりはあまり遅くないバ
ーの閉店時間のおかげで最終電車が来てしまう前に余裕を持ってプラットホームに
たどり着けることを感謝した。
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