オーストラリア誌/AUSTRALIA
 東京ではデザイナーズレストランがとても大流行している。次々と新し
くできるレストランはますます意匠を凝らし、目を見張るような仕上がり
となっている。これらのレストランで私達の目を楽しませてくれている個
性のある店鋪デザイン・設計家達が今、世界中でその才能を求めらている。
 日本において外食は今やただ単に素晴らしい料理を皿の上に表現するだ
けではなくなった。東京のレストランデザイン空間は目を楽しませてくれ
るコースメニューであるとも言える。料理で名を馳せる都市でもデザイン
の得意分野がある。しかし東京は大胆さとデザイナーズレストランの圧倒
的な件数において世界をリードしている。
 新橋にあるシェリー樽を意識したデザインが特徴のシェリーバー「ドッ
セ」とマングローブのイメージを極端に現代的に仕上げた「毎水」の店鋪
デザイナーである兼城祐作氏は、東京で最も想像力に富んだインテリア空
間を作り出している店鋪デザイナーの一人である。バブルがはじけた日本
と見る向きも多いが、例えば兼城氏のようなアーキテクトデザイナーにと
って東京の外食産業は活気を失っているとは言い難い。なぜならば、デザ
イナーズレストランは東京中に増え続け、ウルフギャング・パック、ジェ
イミー・オリバー、トッド・イングリッシュといった有名シェフの来日が
ニュースになる一方で、東京の店鋪デザイナー達による斬新な作品が街を
沸かせているからだ。
 バブル絶頂期(日本経済がオーバーインフレ状態だった1980年代)
開発業者やレストラン経営者は外国人デザイナーの名前をもてはやし、絶
賛されていた。だが、それらのレストランはずっと前に無くなってしまい、
今日業界が再注目されているのは自国の才能とより日本的な美しさである。
「バブル期に重要だったには名前であり、例えデザインが気に入らなくて
も人々はその付加価値にお金を払ってきた」こう話すのは普段は寡黙な雰
囲気を持つ兼城祐作氏である。壁伝いに酒のボトルが陳列したシェルフが
あり恰もバーかと錯角する様な雰囲気のオフィスの中で、黒で統一した空
間のソファーにリラックスした様子で座り、彼はいつになく主張した。彼
は国内でとても多くの作品を手がけている店鋪デザイナーの1人であり、
デザイナーズレストランはとても儲かるとの認識が彼の仕事に対する需要
を加速させていることを認めている。これまで兼城氏は東京で500軒の
飲食店を手掛けている。今後について彼は「何が起こるのかはっきりとは
分からないが、業界は変化し新しい局面に向かうことは確かである」と語
る。しかし最近オープンさせた2軒の店を見ると彼のスタイルはまだまだ
流行から外れてはいないことがはっきりと確認できる。「過去において日
本は西欧のマネをしていたが、今では変わってきている」と兼城氏は言う。
彼はタバコを何本か続けて吸いながら、ラミネートより自然の木材を使い
たいと強調し、彼の言うところのニセモノから離れることの重要性を詳し
く語った。オフィスのカウンターとフロアに無造作に置いてある手作りの
ライオンドッグ像(シーサー)は、現在進行中のプロジェクトで使われて
おり、故郷の沖縄に行った際に持ち帰ってきたものである。彼の様なデザ
イナー達がこだわる日本のオーガニックな美意識は、伝統的な日本のデザ
イン要素や、和紙、竹、土といった素材と現代的な手法に結び付けて表現
され、海外からの注目も集めている。だが、もう一方で「保守的で横並び
な店鋪デザインではなく、挑発的でそこにしか存在しないオリジナリティ
のあるデザインをカタチにしたい」と兼城氏は語る。
 兼城祐作氏の海外での最初の仕事である「モシモシ寿司」は来年初めロ
ンドンのリバプールストリート駅にオープンし、2004年後半には同じ
くロンドンのアイロンモンガーレーンに新プロジェクトであるアジアン料
理とヨガ教室の複合レストランを計画中である。また、アメリカ、ピッツ
バーグの日本食レストランの話も進行中である。
 兼城氏が更に故郷を遠く離れた地で自らの想像力を発揮させていけば、
近い将来まだ彼の才能が届いていない世界の地域で、人々は巨大な竜が登
るレストランで中華料理を楽しみ、ガラスのマングローブの木々の間で会
話を楽しむことになるだろう。
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