中国誌/CHINA
 何が面白いといったところで、やはり人間ほど面白い
ものはないと思う。様々な人がいてそれぞれの生き方が
在り、楽しみとしていろいろなものが存在する。本、音
楽、映画、旅行、賭けごと…酒を飲み食事をするのもそ
のひとつだろう。どんな人でも人生を彩るいくつかの酒
場を持っているものだ。ゆったりしていても味気ない大
空間であるよりは、狭くとも居心地の良い小空間であり
たい。そういう店になればしめたものである、そう想い
ながら「福の木」の設計にあたった。
 一度使用された古木材、古い煉瓦を再利用し、放置さ
れ雨風にさらされた錆鉄、錆石、さらし竹等の風化して
いく素材を組み込み、高低差を設け、奥行き感を与え肩
を寄せ合うような席を設置した。また、華やかな光りで
はなく間接照明を基本としたやさしい灯を計画し、光り
と陰の対比効果で醸し出される、控えめでありながら色
気を添えた空間とした。 
 訪れる客は日常生活の緊張から解き放たれ、料理を楽
しみ、酒を酌み交わし、語らいながら酔い、過去でも未
来でもないそれぞれの世界に包まれ現在を過ごしていく。
「福の木」はただそれだけの酒場である。
                     兼城祐作
BACK NEXT 閉じる