イギリス誌/LONDON
 「モシモシ寿司」に入った最初の印象は、必須である寿司コンベヤーベルトと、木の温もり
で埋め尽くされた落ち着いたスペースであると言う事であろう。更に奥へ進むと、4つのアー
チが天井の傾斜に沿ってカーブを描いているのが一際目を惹く。ミラーが嵌められた4メート
ルほどの高さがある輪っかで、あたかも芸術的にリバプールのレストランにおりてきたスペー
スシップのインテリアかのように見える。
 「モシモシ寿司」は回転コンベヤーベルトをロンドンに紹介した最初の会社である。今年そ
の10周年記念を迎え、チェーン初店となるリバプール店は最近日本の店鋪デザイン界を先駆
ける造形集団代表の兼城祐作氏による店鋪設計で、大掛かりな改装をする事となった。
 この大改装はレストラン統括マネージャーであるエディー・マクアダム氏の監督で行われた。
30代であるマクアダム氏は引き締まった体格にきちんとした身なりで、エネルギーと意志を
みなぎらせていた。彼の履歴書では英国レストラン界における著名人との仕事ぶりを伺い知る
事ができる。彼が最も影響を受けた事業と言うのはクァグリノーズである。「クァグリーノは
英国のレストランシーンを変えた」と彼は主張する。「あれは本当の意味で店鋪デザインがリ
ードし、同業者が同じ様に影響を受ける様導いて行った先駆者である。クァグリーノ以前のイ
ギリスの食文化はひどかったが、今では世界の食シーンの中でもトップ国の一つであり、デザ
イン分野の重要性は過小評価できない」と彼は言う。「デザイン性に優れたレストランは客を
寄せ集めるだけでなく、従業員をも惹き付ける。人は皆ブランド意識を持ちたい、そしていい
環境で働きたいと望んでいるからだ。モシモシ寿司の改装はこのような商業的な考慮的ポイン
トから見ると、私たちの誠実な従業員達への報酬でもあるとも言えるのだ」と語る。商業的角
度から見て、リバプールストリートの改装は夜の食事客を増やす目的が大きいが、しかしマク
アダム氏は言う。「その目的の鍵は、ブランド名のリフレッシュにある」と。「私達はとても
革新的なブランドであり、イギリス内でもユニークなレストランだった。しかし10年間の競
争は猛烈となり、私達はもう一度モシモシ寿司を他と区別させる必要があった」とマクアダム
氏は説明する。
 この会社は5つのレストランを持ち、全てが日本食メニューを出している。そして新たなブ
ランド設立事業の一環として、6番目のオープンが予定されている。兼城祐作氏デザインによ
る、従来よりもずっと大きいアジアンレストランが5月にロンドンのアイロンモンガ?レーン
にオープンする予定である。472平方メートルのスペースは3層に分けられ、浮いた中2階
を含めた1階は日本食(寿司)と韓国料理の味わえるレストラン、そして伝統的日本式庭園の
ある地下1階にはラウンジバーと日本の炉端焼きとヨガセンターなどを作る予定だ。この店鋪
はモシモシブランドにはならないとマクアダム氏は言う。なぜなら、チェーン系列であると言
う印象を与えるのに気が進まないからである。「私達は店鋪デザイン性を高め、市場専門的技
術を取り込んだので、“モシモシ”と言う名前にはしない。チェーンはブランドへの真実の価
値を失わせ、市場はブティックスタイルのような個性をいつも要求する。大通りに遍在するよ
うなアプローチの仕方は大変否定的に見られる」とマクアダム氏は語る。
 モシモシ社は英国デザイナーとも仕事をする。ナイジェルコーツはカナリーウォ?フにある
最初の店鋪のインテリアをデザインし、ブライトン在住グラフィックデザイナー、マークナイ
チンゲールは会社のマーケティング素材をデザインし、これもまたブライトン在住のクリスク
ークはモシモシ社のウェブサイトの責任者である。「しかしながら……」とマクアダム氏は言
う。ブランドの核心の価値は真実の「日本」、「食」のサービス面とその店鋪デザイン面の両
方においてであり、だからこそ我が社は英国人デザイナーでは無く兼城祐作氏を選んだのであ
る。これは日本と仕事をする際の伝統的なアプローチ法を覆すと彼は言う。「過去には、日本
企業が大事業の際には西洋のデザイナーを探しにきていた。しかし今日では日本古来の才能を
讃える真の再復興があり、兼城氏はその大きなパートを占めている。私たちは、この日本の創
造性をロンドンに持ってきたかったのである」マクアダム氏によると、現代の日本的インテリ
アデザインは田舎風の伝統的な味と、日本の都市的ハイテク要素の模写を現代風にアレンジさ
れ融合されてできている。「モシモシ寿司」で例えると自然な素材を組み合わせる事と、未来
的な形の繭を意味する。レストランには4つの異なったダイニングエリアがある。駅のホーム
を見下ろせるブース席、繭、寿司コンベヤーの横の個別席、そしてもっと小さなプライベート
用の二人席である。「スペースの限られている東京では小さな空間を多様に変化させられる事
は重要である。兼城祐作氏は、人々がいつでもここを使えて、それでいてそれぞれ違った雰囲
気を楽しめるような“何か”を作り出したかったのである」とマクアダム氏は言う。
 日本が導くブランドに全て携わったマクアダム氏であるが、その国にはたった一度訪れたの
みであり、「奇妙な国」と表現する一方、「少しは気に入っている事もある」と認めつつも、
日本については両面感情は全く無く、これから彼のエネルギーと情熱が「モシモシ寿司」を将
来どのように駆り立てて行くのかが見ものである。
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