イギリス誌/LONDON
 東京の新橋にあるレストランバー「あしびなー」のファサードをよじ登る巨大
な琉球のライオンドッグ(シーサー)にご用心!!“シーサー”として知られて
いるこの獰猛な見かけの創造物は、日本の最も南の国土である沖縄という熱帯の
島から来た。島の人々にはこの守神を住まいの独特な赤い瓦屋根の上に飾る習慣
がある。「あしびなー」は沖縄生まれのインテリアデザイナーである造形集団代
表の兼城祐作氏によって店鋪設計されており、沖縄料理をデザインコンセプトに
結び付け、かつては日本から独立した地域であった故郷であるこの島から多くの
インスピレーションを受けている。
 2000年に東京をベースとした兼城氏のスタジオである造形集団を設立して
以来、4人の強力なチームは信じられないほど沢山の店鋪デザインを生み出して
きており、兼城氏はこれまでに日本で500軒を超えるレストランやバーを創って
いる。兼城氏は木の枝や小石、和紙、そして竹や土といった自国の本物の自然素
材を使い、超現代的で映画のシーンに登場する様な空想的インテリアデザインを
巧みに融合させている。兼城氏の設計したレストランの殆どは、何とも不思議な
空間と魅力的に広がる照明計画と斬新なデザインを体験する事ができる。彼の店
鋪デザインの目的は“存在しない何か”“誰も見たこのとのない全く新しい何か”
を造る事なのである。「あしびなー」は飲食ビルの4階にあるが、兼城氏は深い
赤色のランプを目的毎に使い分け、幻想的な隠れた森や洞窟を思い起こさせるよ
うなインテリアを作り出した。複雑に編み込まれた枝や蔦がジャングルの林冠部
を形作るようにアーチを描き、天井はスポットライトが部分的に隠されている為、
陽光が木々を通して揺らめいている様な錯覚を起こす。ブース席は沖縄に今でも
残る洞窟に関連している。それは第二次世界大戦中、住民や日本兵が防空壕とし
て使っていたもので、兼城氏が幼少の頃“基地”と称して遊んでいた頃の記憶が
基となっている。その他にも沖縄古来の石を敷き詰めた石畳の床や、中国文化の
影響による伝統的な赤い瓦屋根を使ったバーエリア等、兼城氏の故郷へ対する遊
び心ある敬意は店内のあらゆる場所に鏤められている。赤は沖縄の伝統的な色で
あり、兼城氏はその色をメインカラーにして「あしびなー」の素朴なインテリア
デザインの一部分を強烈な色調で染めており、バックバーの奥に構えるボトルデ
ィスプレイや洞窟、ガーゴイルのようなシーサーの口は赤い光を間接的に浮かび
上がらせ客を店内に導いてくれている。ここは、兼城氏が沖縄で走り回っていた
頃に見たり感じたりした事の記憶が「形」となって表現された“あしびなぁー(
遊び場)”の集大成なのである。
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