イギリス誌/LONDON
驚くほど素晴らしい21世紀の改装により、日本食レストラン「モシモシ寿司」はロンドンのイ
ンテリアデザイン界における希少な逸品になった。“ロストイントランスレーション”や“ラス
トサムライ”などたくさんの観客の関心を寄せ集めた映画や、それらの輝かし栄冠により、私達
の日本への全ての事に対する熱い思いに再び火が点いた。西と東の大きな文化的隔たりが両映画
のメインテーマであるのに比べ、日本デザインの美や器用さと私達の食欲をそそる日本食とが、
長い間この二つの異なる文化の架け橋の役目をし続けている。そして絶妙なタイミングで、希少
な逸品である日本の現代店鋪デザインにより、リバプールストリート駅構内2階のブティックス
タイルレストラン、「新モシモシ寿司」が完成した。
 10年前「モシモシ寿司」は、コンベヤーベルトの上を終わり無くカタカタと流れる、小さな
寿司の皿を眺める目新しさを始めてロンドンっ子に紹介した。あれから10年が経過し、沢山の
事が変わった。首都を横切って何十もの日本食レストランがオープンし、私達も寿司や刺身の事
まで周知するようになり、杯を傾ける時に間違っても「チンチン」などと言って大恥をかくのを
避けられるようになった(日本語でペニスの意味)。この10年目の記念日を祝うため、ロンド
ンに4店鋪、ブライトンに1店鋪というチェーンレストランのうちの1店鋪であるリバプールス
トリート店は、日本の店舗デザイン界を先駆けるインテリアデザイナーの1人、造形集団代表の
兼城祐作氏に21世紀の東京スタイルによる大改装を依頼した。これは兼城氏によるロンドン初
のプロジェクトである。
 「兼城氏はまだ40代でありながら、信じられないほど膨大な量の店鋪設計依頼をこなし、そ
の数は一年に40件以上ものレストランデザイン需要をこなすほどである」と語るのはモシモシ
寿司の統括マネージャーであるエディー・マクアダム氏。
 兼城氏は、日本古来の良きデザインを現代に再生表現した先駆者の一人である。数十年前には
日本のレストランやホテルのデザインにはフィリップスタルクやナイジェルコーツなどを含む西
洋のデザイナーを使うのが流行りであったが、今やこれは逆となっている。兼城氏の膨大な数の
作品の中でも、最も才能あふれるインテリアデザインと言えば東京で特にホットスポットである
恵比寿の「ほやほや」や、ビジネスマンの行き交う街、新橋にある「ゆらり」であろう。「彼は
スペースを扱うのに長けている事で良く知られている」とマクアダム氏は言う。「特に東京では
スペースが重要視されているので、兼城氏はその創造力を駆使して誰もが匙を投げそうなかなり
小さいスペースをいっぱいの謎で詰め込んでしまう」わりと小さめサイズであるリバプールスト
リート店でも、兼城氏はその空間エンジニアの才能を大いに発揮し、古びたの木材やガラス、ス
チール、畳などのシンプルな素材を使い、4つの異なるダイニングエリアの連携空間構築に成功
した。これらのインテリア空間は、親密な雰囲気を醸し出しているブース席から、止まり木のよ
うなカウンター席、リラックスして交友を深められるグループ席などにいたっている。「常連客
は、その時々の気分やニーズに合わせて違った席を選んで、違った雰囲気を楽しむ事ができる」
とマクアダム氏は説明する。店鋪デザインのインスピレーションは、もともとあったアーチ形の
ガラス天井から始まり、それが兼城デザインにより巨大な木製の輪っかとなり、繭のようなダイ
ニングエリアを造り上げた。
 味のあるクルミ材は、夜の明かりとともに炎のように浮かび上がり、暖かい包み込まれた雰囲
気を醸し出している。これらのデザイン改装計画の背景には、夜の客を集める事も一つの理由に
あったのである。繭の様な筒型のスペースに関していえば、ならされた白砂と小石との小さな庭
上を歩く事ができる様、スチールの足で持ち上げられている。床から浮かせる事により面白い景
観効果が生み出され、視覚をだまして空間を実際より広く感じさせる事に成功した。これは兼城
氏のもう一つのトレードマークである、“伝統的デザイン要素は一度破壊し、再構築する”彼独
自の表現方法なのである。輪っか席の外側であるプラットフォーム沿いにはグループ用のテーブ
ルが並べられ、食事客は鳥が見下ろすように急ぐ通勤者たちを眺める事ができる。反対側の片側
の壁には小さな二人用ブースが並び、そしてコンベヤーベルトカウンターの内側では東奔西走す
る板前たちとともに、リング状のモシモシ伝統のカウンター席は今も健在である。
 新しくなったインテリア空間を讃えるためにレストランのメニューも再検討された。勿論、生
魚マニアのための寿司と刺身はそのままで、加熱された肉や魚とご飯との組み合わせである由緒
正しきどんぶり等の調理されたメニューが加わった。話変わってモシモシチームは、兼城祐作氏
のロンドン2番目となる新プロジェクトに取りかかっている。5月にオープン予定の「モシモシ
寿司」とは違った都市ベース型のこのレストランプロジェクトは、寿司を始め日本の炉端焼きや
焼肉、ラウンジバー、そしてヨガ教室が盛り込まれているが、兼城氏にとっても新境地を切り開
くきっかけとなるレストランデザインになるのではないだろうか。
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