海外向け日本誌/WORLD
 兼城祐作氏はインスピレーションの波に乗って、女性向けの焼酎バー「草
庵」をデザインした。
 「草庵」という店名が先に決まっていたこの店の店内に入ると、まずはグ
リーンの配色で店名でもある「草」と「花」の形や素材でいっぱいだった。
 蔦で複雑に編み込まれた篭の席には大きなガラステーブルを支えている古
い木の幹があったり、床に敷き詰められたリーフを象ったエメラルド色の強
化ガラスなど人々が集まるこのスタイリッシュな店鋪デザインは、我々に熱
帯林と珊瑚色の水を思い描かせてくれた。中でもガラスを何層も重ねてでき
たカウンターと、葉っぱ型にくり抜かれた天井から漏れる柔らかいグリーン
のランプは印象的であり、加えて自慢の“焼酎”が更にインテリア空間のイ
ンパクトを強めている。
 多くの人が一番良い焼酎は九州産であると思っている一方で、沖縄特産の
泡盛もかなりのシェアを誇っており、草庵は9月末までフェアを行っている。
しかし、我々はもう少し弱い酒を求めて、“八重桜”を注文した。これは、
2000年の沖縄サミットで乾杯に使われた飲み物であり、恐らくこれを飲
みすぎたが為に我らが信頼するあの森首相がビル・クリントン夫人のことで
ちょっとおかしな発言をしたのだろう。我々は一番良い席に座ることにした。
そこは窓の側のガラスで囲まれたグループ席で、7階下の新橋駅を見下ろす
ことができる。談笑しながら我々のグラスは空になり、辛口で僅かに後味が
鋭いが、とても飲みやすいこの飲み物をおかわりしていた。どんなに透明で
水晶のようであっても焼酎はアルコールであるが、居酒屋スタイルのメニュ
ーから選んだつくねや寄せ豆腐を食べながら、あるいはこれらを食べていた
からか、我々は奇跡的にあまり酔うこともなく次に他の酒を試してみること
にして、“千亀女”を頼んだ。3年もので濃厚なこの焼酎は口の中に何か後
を引く刺激的な甘味が残った。九州産のものをもう少し飲んでみようと我々
は次に“萬膳庵”に挑戦した。この鹿児島産の焼酎は芋から作られているの
だが(米や小麦とは対照的である)、テーブル上で炭火を入れた真鍮の容器
の中で暖められたせいか強い香りを発し、フルボディでやや辛口である。我
々は熊本産の米焼酎、“豊永蔵で夜をしめくくった。漢字で書かれたメニュ
ーに記してあった通り、まろやかで飲みやすくどんなものとも調和する味で
あった。焼酎に薬効があると言われるのも親しまれてきた所以である。そし
て、兼城祐作氏の生まれ育った沖縄の海と緑を感じさせてくれるこの「草庵」
はまぎれもなく、仕事帰りのOLやビジネスマン、カップル達と老若男女問わ
ず平日の夜でも立ち寄りたくなる空間なのである。
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