海外向け日本誌/WORLD
 今日グルメな人々にとってのスターはもはや有名なシェフではなく、自国のアバンギャルドな
デザイナー達である。都会の最もホットなスペースを、製図台から実際のダイニングテーブルへ
と実現させる店鋪デザイナーの一人、造形集団代表の兼城祐作氏から話を聞いた。
 アーティスト、マイケル・チョウが1968年ロンドンに「Mr. Chow」をオープンする際にそ
の店を地図に掲載して以来、そういった広くアピールする方法が雑誌などに取り上げられたりす
る事が、海外で成功する為の一つのキーポイントとなって来ている。ロンドンではテレンス・コ
ンランの料理が帝国の流れを作ってきたと言えるかもしれないし、時代の反逆児であるダミアン
・ハーストからフィリップ・スタルクに至るまで皆レストランを自分の作品としているが、東京
は飲食店の圧倒的な数と店鋪デザインのダイナミックさで世界をリードしている。様式化した店
は大都市の至る所で急速に増えクリエイティブで通な人々に焦点を当て、景気停滞にもかかわら
ず勢いを増しつづけている外食産業を支えており、02年5月には1 . 4%の伸び率を示してい
る。スタイルに敏感な都会人とデザインにハングリーなメディアを意識して、飲食店経営者は流
行る店にする為個性ある店鋪デザインに投資をしている。
 新橋にあるシェリー樽を意識したデザインが特徴のシェリーバー「ドッセ」やマングローブか
らヒントを得て造られた非常に粋な「毎水」の設計ブレーンである兼城祐作氏の様なアーキテク
トデザイナーはブームの受益者であり、彼のようなデザイナー達が大胆に想像力を発揮する事の
できる東京の自由さがダイナー達を驚かせる店を生み出し続けている。
 バブルの時代、企業投資家は外国のものなら何にでも魅力を感じていたし、フィリップ・スタ
ルクといったビッグネームのデザイナーは絶賛されていた。彼は4年で4軒のレストランを造り、
派手なスタイルは人々を惹きつけ話題を呼んでいた。「スタルクは偉大なデザイナーであり私も
好きであるが、彼がデザインした店は結果的に上手くいかなかった」と兼城氏は語る。「バブル
の時は重要なのは名前であり、必ずしも気に入った店鋪設計に投資してきたというわけではなか
った」最近、ファンキーなデザインの「マジェスティック」を作品に加えた彼はこう付け加えた。
今日スタルクの作品として残っているのは、浅草にあるアサヒビールのかの有名な“黄金の炎”
だけであり、デザイナーズレストランは日本人デザイナーがクリエイティブな才能を発揮する確
固とした領域となっている。
 日本の店鋪デザイナー達は、景気後退に抵抗し良い業績を上げ続けることが可能なのは飲食店
ビジネスだけであり、その為おしゃれで新しい店が街には増え続けていると揃って合意する。そ
して良い店鋪デザインは顧客を集める一つの手段であると認知されている。「今では、店で出さ
れる料理やサービスのレベルはどこも似通ったようなもの。だからこそ、店鋪設計における差別
化が流行る店にする為の益々重要なポイントの一つになってきている」と兼城氏は語る。とは言
え、最近「モーモーパラダイス」の1店舗をデザインした彼は、地方の居酒屋からチェーン店に
至るまで皆横並びの店鋪デザインになってくると考えられ、近い将来市場は過飽和状態になって
しまうだろうと話す。
 東京の外食産業に向けられる一つの批判は、しばしば料理やサービスの質は見過されがちであ
るということである。「多くの店で料理はデザインに比べ二の次であるというのは残念ながら事
実であり、私が設計・デザインした内の何店舗かでもベストな料理を提供してはいないと言わざ
るを得ない」と兼城氏も率直に認めている。テレンス・コンランの「Met Bar」がロンドンでは
周知のとおり平均的な評価しか得ていないことや、ハリウッドのセレブお気に入りの店であるビ
バリーヒルズの「MrChow」に対する雑誌GQに載った最近のひどい批評を見れば、料理よりまず
デザインといった問題が必ずしも東京だけに限られたものではないということを示している。
 東京のダイニングシーンはデザイン過剰という問題に直面しているかもしれないが、世界的に
は日本のスタイルは白熱している。身近なPCの壁紙からワシントンの通りに至るまで全てのも
のに日本風が流行っており、日本人デザイナーは一貫して人気がある。兼城氏もピッツバーグや
ロンドンで仕事をしており、日本のインテリアデザインを輸出する良い機会だと見ている。「今
までの日本の店鋪デザインは西洋のマネであったが、最近は少しづつ変化しつつある」と兼城氏
は言う。彼の言うところのニセモノから離れることで本来の重要性を強調する。例えばラミネー
トではなく天然の木材を使ったり、あるいは故郷である沖縄に新しいプロジェクトのための手作
りのシーサーを自ら探しに行ったりすることである。この、日本で培われたオーガニックな美意
識は、伝統的な日本のデザイン要素を和紙や竹、古レンガといったシンプルな材料を使用し、現
代的な手法で結び付け海外からの注目を集めている。日本食が世界的に主流を行くにつれ、東京
のテーブルトレンドが後に続くのは間違いないだろう。既に世界的に流行っているものの1つに
オープンキッチンがあるが、これはアジアの伝統的で主要な飲食店の形態である。今やミラノか
らシドニーまで人気のあるインテリアデザインに関する話題の中で最も新しい手法はショーキッ
チンであり、これはアジアの調理の文化からヒントを得たものである。兼城氏のデザイン・設計
するレストランの大半もオープンキッチンであり、見せる事による食への安心感と空間をなるべ
く閉鎖感のないものにする為の方法で客席にうまく融合させている。このオープンキッチンを設
ける事により、キッチン側の人間も見られるという事でモチベーションが上がるという利点作用
もあるのだ。
 大多数の飲食店が地下や高層にある東京は、大半の店が通りに面した立地にある多くの西欧諸
国の都市とは条件が異なっている。テナントの場合、家賃は1階部分が最も高いが、借り手も早
い為なかなか物件が出にくく、地下又は2階以上の上階の場合はファサードや自然光もない状態
から人々を引き寄せる名案を余儀なくされる。兼城氏の設計した、「ぱちぱち」や巨大な竜を飾
った「シナヤム」も客を店内に呼び込むために人目を引くインパクトのあるファサードを造って
いる。そして、海外なら無理だと思われるような狭いスペースでさえ東京では繁盛しているので
ある。海外の同業者と比べて東京人はユニークなスペースを好む傾向があると兼城氏は話す。「
東京の狭い店は何かとリスクも大きい為ハイレベルなサービスと料理を提供しなければならなく、
それをカバーする為にも私はそこにしか存在しない特別な雰囲気を作り出すことが大事だと考え
ている」と兼城は語る。
 沢山のリスクを背負っている東京のレストラン空間は、兼城祐作氏の様な異端児の手に掛かり
変貌し成長し続けるのかもしれない。この大都市にいて、シェリー酒の樽やマングローブの林の
様なイマジネーションに富んだスペースで食事ができるというのは他では味わえないすばらしい
経験であると言えるだろう。
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