海外向け日本誌/WORLD
 我々は東京のトップレストランデザイナーの1人である造形集団代表の兼城祐作氏の店
鋪デザインを見に新橋に行ってみたかったのだが、サラリーマン天国である新橋はテリト
リー外でありまだ実現するに至っていなかった。しかし兼城氏がもっと近くに居酒屋を何
軒かデザインしていると最近知り、行って見なくてはと思ったのである。今風におしゃれ
をして恵比寿を歩く人たちの横を通り過ぎ、我々は彼のお得意の有機的なデザインをトー
ンダウンしたバージョンを予想してビルの4階に上がった。エレベーターのドアが開いた
時、我々は別の領域に来たと感じた。恐らくフリンストン時代への入り口へ……。和紙で
できた光を放つ円錐形のライトが土のような天井に吊り下げられており、かなり矯正が必
要なT?レックスの口の中に入ってしまったように感じられた。我々は石を並べた通り道
を抜けてモザイク模様の通路へと案内された。敷き詰められた小石の上に置かれたタトゥ
イーンスタイルのブースはフレッドとウィルマのダイニングルームをもう少し豪華に飾り
つけたような感じで、我々もそのブース席に落ち着いた。居心地がよく隔離されているブ
ースの中でくつろぎ声を出して楽しく笑い合い、まずは一杯目の生ビールを飲みながら漢
字のメニューをゆっくりと解読したが、とうとう我々を悩ませているのは一体どんな料理
なのか気をもんでいるウェイトレスに説明してもらった。店の外のメニューには“スパイ
スアップユーロダイニング”と謳ってあり、実際メニューにはパスタやニュースタイルの
サラダピザといった料理が他の日本の居酒屋料理とともに載っており、店のお勧めメニュ
ーのピンチョスあるいはタパススタイルのプレートはシェアして食べるのにもってこいで
ある。とてもヨーロッパ風なのはワインのセレクションで20種類が用意されており、我
々は何種類かのイタリアンバライエタルワインを立て続けに飲んだ。ヨーロッパ風にこだ
わって我々はミディアムサイズのトマトとバジルのスパゲッティ、ペンネアラビアータ、
チキンとポテトのコロッケを頼みシェアして食べた。パスタは美味しく、アラビアータは
良いアラビアータがそうであるようにしっかりと辛く、コロッケはマッシュポテトに海老
とスパイスで煮込んだ牛肉が入っていて揚げた衣はサクッとしており、もう一皿注文する
ほどであった。シーザーサラダピザにも魅力を感じたが、急に心変わりして春巻きとその
日のお勧めのピンチョスを注文した。とてもクリスピーなウェスタンスタイルの春巻きは
ピリ辛味の豚肉と野菜がぎっしり詰まっていて、風味の良いごまじょうゆと甘辛のレッド
チリソースがつけだれとして添えられていた。食欲をそそるフィンガーフードはスタータ
ーにうってつけであるが、もし我々がもっと漢字を読めたならパスしていたかもしれない
……。後で分かったのだが風味豊かな詰め物は実は豚足であった。“本日のピンチョス”
もチキンを緑色の葉で巻いたもので食べやすく、お変わりしたいくらい美味しかった。 
 「エピス」の大きな魅力はインテリアデザインとその雰囲気であるが、リーズナブルな
値段の料理も美味しく訪れる価値は十分にある。我々の生活は近代的であるが、ちょっと
した石器時代の面白さを楽しみにまたすぐに恵比寿に来ることになりそうだ。
注:タトゥイーン=スターウォーズに出てくる惑星
  フリンストン=アメリカで人気の石器時代を舞台にしたアニメ。
  フレッドとウィルマの夫婦が主役である。
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