海外向け日本誌/WORLD
 池袋のネオン街、その裏通りにちょっと上品な場所があるとしたらそれは、この高級
感ある居酒屋である。これはレストランデザイナーとして急成長している兼城祐作氏の
数多くある店鋪設計の作品の一つで、初期のスタイリッシュな店「翆々」である。
 予約をして行かなかったのは失敗で少し待つはめになったが、それでも待ったかいは
あり、両側を蔦などでディスプレイされた暗く狭い通路を通って、案内されたのは壁に
孔雀の尾羽を象った鉄のオブジェが飾られた居心地のよい席だった。店内は客で一杯で
ウェイターがオーダーに来るのも遅かったが、その間を利用して天井から吊り下げられ
た蔦、スーツ姿の気さくなサラリーマンやOL達が座っているコンパクトでメタリック
なブース席、店内を照らしている卵形の和紙のランプといった店内のインテリアデザイ
ンの細かい所まで見ることができた。光沢のある今月のカクテルメニューを見て、今自
分達は山手線の通る街にいるのだと思い出した。そのメニューにはカッコいいバーテン
ダー達の写真とそれぞれが作った今月のスペシャルカクテルが並んで載せてあった。面
白かったがそれは脇に置き、我々は普通の食べ物と飲み物のメニュー目を通した。そし
てまず、食べ物の前にスノーストロベリースムージーと風味の良いアプリコットリキュ
ールレモネードで喉の渇きを癒した。「翆々」は鉄板焼き屋ということになっているが、
赤熱の鉄板はシェフがいるキッチンにのみ置いてあり、テーブルには小さくカットされ
たグリルドビーフ、シーフードや野菜は飲みながら少しずつ食べるのにうってつけな大
きさで出て来る、典型的な居酒屋スタイルである。我々はまずバターで焼いてしょうゆ
で風味をつけ深海塩を振りかけた柔らかい貝柱を食べたが、湯気の立つ美味しそうなこ
のつまみを堪能するには生ビールをオーダーするべきだったと後悔した。ボリュームの
あるこの料理の後に来た豆腐ステーキは箸でも食べやすく、醤油や大根おろし、酢、ト
ラディショナルなスパイスをブレンドした美味しいスタミナソースがかかっていた。醤
油をかけたヘルシーなもやしが下に敷いてあり鉄板にしみこんだ色々な食材の匂いがし
ていた。日本風の味は十分味わったので、次に他のアジアの味を試してみることにした。
すぐに我々は四角いガラス皿に美しく盛り付けられ、中華風プラムソースのかかった冷
たい鶏の胸肉とキュウリの細切りを包んだベトナム風生春巻きに驚嘆した。最後にスパ
イシーなつけだれが添えられた韓国風のニラチヂミに我々の舌は辛さに火が付いた様に
なり、殆ど限界に達してしまった。ジントニックを何杯か飲んだ後デザートを食べる為、
エネルギッシュで活動的なウェイターを呼んでテーブルを片付けてくれるように頼んだ。
我々はヴァニラアイスクリームを乗せたハニートーストを何切れか何とか頑張って食べ
ながら、更に杏仁豆腐も注文したが、どちらも食べ過ぎた胃にはとても心地よかった。
座り心地のよい椅子に座って勘定が済むのを待っている頃には、ネクタイをゆるめくつ
ろいでいた他の酔っぱらった客達もそろそろ帰り始めているところであった。この店に
来て良かったと感じながら我々も蔦で飾られた小道を通り帰途についた。
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