【コラム4】 『デラシネ的イキカタ』 ―兼城祐作―
 困ったもので、私には放浪癖がある。
 昨年の事だが、ロンドンでの仕事が予定より早く終わり、自由な時間を得た。
さっそくパブをリサーチしてやれと思い立ち、朝からロンドンの街を徘徊し、片
っ端からパブに飛び込んだ。上機嫌で八軒ほど飲み歩き、夜中に千鳥足でホテル
に辿り着いたまでは良かったのだが、二日酔いで翌朝の飛行機に乗り遅れてしま
った。すったもんだの末になんとか別の午後便が取れ、東京での打ち合せに間に
合い、事無きを得たのだが、反省の至りである。
 放浪癖は子供の頃の探険や日帰り家出に始まるのだが、親に叱られても懲りず
に繰り返したものである。高校生の頃になると放浪範囲が広がり、離島へのキャ
ンプや、友人達と「沖縄を愛する仲間」なるものを結成し、沖縄各地の歴史や文
化を泊まり掛けで見て廻った。七十八年の「久高島イザイホウ」にも行ったが、
それを最後に開催されてない事を考えると、今となっては貴重な体験である。
 東京に来てからは放浪癖に拍車がかかった。いろんな街をひたすら歩き廻り、
路地や建物を探索しながら安い飲み屋を見つけては酔い痴れる日々を過ごす。
新宿や渋谷で飲んだ後に高円寺のアパートまで歩いて帰ったり、衝動的に高円寺
から横浜まで一昼夜かけ歩いた事もある。歩き疲れて公園で寝たことも一度や二
度ではなかった。又、東京脱出と称して、自転車で無人駅に寝泊りしながら三ヵ
月かけて北海道を廻ったり、バイクにテントと寝袋を積み込んで気の向くままに
全国各地に行き、気に入った場所には何度でも訪れた。
 海外も同様で、サヨナラニッポンと称し、アメリカにいた友人とテントに寝泊
りしながら全ての州を廻った。風呂にも入らずに豪雨があるとシャワー代わりに
身体を洗い、缶詰が主食で、時には互いの歯ブラシを箸代わりに利用してカップ
麺を喰い、所持金は殆どガソリン代に消えていった。今でも奴と飲むと、もっと
旨いものが喰いたかったと文句を言われる。
 最近は国内や海外の出張先でのプチ放浪が多くなった。時間を見つけては行く
先々の街を探索し、仕事の合間に楽しんでいる次第である。原点回帰で、沖縄本
島や離島を歩き廻る事も増えており、今年の夏には娘と自転車でキャンプしなが
らの本島一周を計画しているのだが、今から楽しみである。放浪癖は歳を喰って
も治らないものらしい。
 デラシネ的な生き方ではあるが、メディアからの情報だけではなく、自分の足
で歩き、目で見て、肌で感じ、五感で得る価値観を大切にしたいものである。
 私のエネルギー源は放浪にあるのかもしれない。
※久高島イザイホー=沖縄本島の
 東に位置し、神の島として崇め
 られている久高島で十二年毎に
 行なわれる祭りである。
 現在はノロ不在の為に七十八年
 以降開催されていない。
※デラシネ=根無し草
 (フランス語/deracine)
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